インフレとデフレ

 

 

1.デフレの原因

 最近、デフレの犯人探しがさまざま論じられているが、ここでは簡単に触れるにとどめる。原因として考えられるのは、

有効需要の不足  (団塊世代が老後に備えて買い控える。若い世代の非正規雇用が増加し、所得が低く買うお金がない。 円高による産業の空洞化などで投資が増えない。

・グローバル化に伴い、中国など海外から安い製品が輸入されるようになった。

・円高による輸入製品価格の下落。

・ICT革命などの技術革新(技術革新は、基本的には物価を引き下げる傾向をもつ)

 この中で、最も基本的な要因は「有効需要の不足」であろう。

有効需要=消費+投資+政府支出+(輸出−輸入)

のうち、60歳代の団塊世代は将来に備えてお金を使おうとしないし、若い20代30代の人は、非正規雇用に甘んじている人が多く、お金を使いたくても使うお金がない。その上、円高で企業は日本国内に工場を建てようとしないし、円高で輸出も伸び悩んでいる。頼みは政府支出だが、その政府も累積債務残高が膨れ上がり、身動きが取れない。その結果、日本全体で約40兆円の需要不足(=デフレギャップ)が発生している。

 長い間経済学はインフレと戦うことに精力を費やしてきた。しかし、今やデフレとの闘いが主戦場になってきた。大恐慌のときを除けば、世界で本格的なデフレを経験したのは日本が初めてである。処方箋なきデフレとの闘いをどのように進めるか。今のところ治療法は確立されていない。

 

 

2.インフレ・デフレで得をする人、損をする人

 インフレのとき

 デフレのとき

(損をする人)

・銀行に預金をしている人

・他人にお金を貸している人

(得をする人)

・借金をしている人

・日本円ではなく、外貨預金にしている人

・現金ではなく、株・土地・金など値上がりしそうな資産をもっている人。

(得をする人)

・銀行に預金をしている人

・他人にお金を貸している人

 

(損をする人)

・借金をしている人

・日本円ではなく、外貨預金にしている人

 

 

 

 

3.借金をしているとなぜデフレで損をするのか。

 今までの経験では、このことを生徒に理解させるのが結構難しかった。しかし、次のように説明すると簡単に説明できることを最近知った。

 「Aさんが銀行から1000万円借りてj住宅ローンを組んだとする。インフレの時は物価の上昇に伴って、お父さんの給料も上がっていく。借金の額は変わらないのに、給料が上がっていくのだから、インフレの時借金をしていると得をする。

 反対に、デフレの時は物価が下がって、お父さんの会社の売り上げも伸びない。そのため給料は毎年下がっていく。借金の額は変わらないのに、給料だけが下がっていくのだからデフレの時、借金をしていると損をする。

  インフレもデフレもよくないが、どちらかというとデフレのほうが「たち」が悪い。なぜなら、インフレは好景気を伴うことが多いのに対して、デフレは不景気と一緒にやってくるからだ。現在、日本最大の負債を抱えているのは政府である。だから、政府はデフレの影響をもろに受けているといってよい。不景気で税収が落ち込む一方、借金が膨らむのだから、このままデフレを放置すると「エライ」ことになる。

 

 

 

4.デフレスパイラル

 一旦、デフレに落ち込むと、デフレスパイラルになる可能性が高くなる。理由は、以下のとおりである。

 

@今日買うより明日買うほうが安くなるのだから、消費者は買い控えをするようにる。

A企業も新たな借金をすると実質的な負担が増えるから、なるべく借金をしないでおこうとする。そのことが新たな投資を抑制し、有効需要のさらなる落ち込みを招く。

 

   

 

結局、需要不足がさらに激しくなり、会社は儲からない

 

   

 

会社が儲からないから給料を下げ、ますますモノが売れなくなり物価が下がる。

 

 

 

物価と為替レート

 長期的には為替レートは物価水準に比例する。すなわち、インフレの時には為替レートは円安になり、デフレの時には円高になっていく。為替レートが2国間の物価変動を反映して決まるという考え方を購買力平価説という。

 バブル崩壊後、円高が続いてきた。2012年12月に誕生した安倍政権は2%のインフレターゲットを設定し、脱デフレを宣言した。その結果、為替は急速に円安に向かっている。70円台だった為替レートが、一気に90円台をうかがう水準まで円安になった(2013年1月14日現在)。

物価上昇→円安→輸出増加→景気回復

物価上昇→企業借金増加・企業投資増加→景気回復

 という波にうまく乗れるかどうか。もし乗れたとしても、財政規律が緩んで物価上昇率が2%でおさまらなくなり、ハイパーインフレにならないかどうか。2015年は、どうやら面白い年になりそうである。

 

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